2007年8月25日刊
教育学関連15学会共同公開シンポジウム準備委員会編
『新・教育基本法を問う―日本の教育をどうする―』
定価:2000円
発行所:株式会社学文社 TEL:03-3715-1501 FAX:03-3715-2012
まえがき(抄)
「教育基本法改正案」は、小泉純一郎政権下、2006年4月28日閣議決定され、即日第164回通常国会に提出された。衆議院に「教育基本法に関する特別委員会」が設置されたのは5月11日であるが、その後、国会会期切れにより審議は次の165回臨時国会に持ち越された。小泉内閣の後を受け、「戦後レジームからの脱却」をめざし2006年9月に誕生した安倍晋三内閣は、憲法改正を視野に置く新教育基本法の制定(改定)を強く迫った。同改正案は、11月16日に衆議院本会議、12月15日参議院本会議でそれぞれ可決され、同月22日公布・施行となった。拙速のそしりを免れない新教育基本法がここに成立したことになる。その後、教育関連三法案が2007年の通常国会で成立したことは周知のとおりである。
準備委員会は、圧倒的な与党議員数のもとで新教育基本法成立の可能性大であるが、新教育基本法案が有することがらの重大性に鑑み、その本質を改めて問い、さらには日本の今後の教育の在り方を視野に、第五回共同公開シンポジウムを(2006年12月3日に[引用者注])開催することにした。(中略)
◇ ◇ ◇
準備委員会に残された最後の仕事は第5回のシンポジウムをまとめ、公表し、ここでの経験を今後の教育学及び教育学関連学会にどう継承するかということであった。シンポジウム報告者各位に今後の日本の教育の在り方を視野にご執筆をお願いし、また成立した新教育基本法に対する思いを教育学関連学会に「教育学関連学会の意見表明」として寄稿をお願いしたのもこうした問題意識からであった。(後略)
改正教育基本法の可決に際しての会長所感(pp.113-114)【PDF版】もございます
日本教育制度学会(桑原敏明)
改正教育基本法が『官報』に掲載されて施行された2006年12月22日、わが学会の『Newsletter No.14』が刊行された。私は冒頭の会長挨拶で、次のように述べた。
「去る12月15日には、誠に残念ながら、教育基本法改正政府案が可決成立いたしました。個人的には、全国の教育学研究者に呼びかけて、教育の本義に即して慎重審議を国会に要請してまいりましたが、受け入れられず、誠に残念です。この改正の延長線上には、わが国の教育の混迷が予想され、教育制度の研究と教育が、ゆがんだ方向に向かうことが懸念されます。私たち教育制度研究者は、教育は近未来の人類の福利を担う子どもたちの「最善の利益」=人間としての「生きる力」を最大限に発達させるという国際的・人類史的に承認された教育の本義の実現を目指して、あるべき教育制度の構築に貢献する決意を改めて確認する必要があると考えます。教育制度は、個人的営みではなく、社会的公共的営みです。その方向を間違うと是正することが困難であるだけでなくその弊害は広く及びます。
教育基本法の改正によって予想される教育の混迷を避けるためには、国際的人類史的に蓄積されてきた教育研究及びその成果を踏まえた教育改革の在り方を集約し、教育の本義に照らしてさらにその在り方を探求しなければなりません。私たちは、教育制度の専門研究者として、あるべき教育制度の研究成果を広めなければなりません。
この仕事こそ、本学会の『教育改革事典』刊行の事業です。」
今回の教育基本法の改正によって、我が国の教育制度は、本来そのために構想され、改革されるべき「子どもの最大限の発達」をぐっと遠景に追いやり、代わって国家・社会や「我々国民」、特に教育制度の運用については「政府」を前面に引っ張り出してきました。これは1900年以前の時代への逆行であるのです。1900年前後に始まる新教育運動=児童中心主義の教育理念の実現を目指して、絶対主義、国家主義、経済優先主義など総じて「おとな勝手主義」の圧力を少しずつはねのけて近景へ這い出てきた「子どもの最大限の発達」の理念を、再び遠景に蹴落す行為なのです。だから私たちは、我が国の「教育の混迷」を懸念するのです。混迷は、国家・社会や「政府」や「おとなの勝手」が子どもの視点を抑圧することによるだけではありません。歴史の進展を推進してきた力とこれを押し止める力との葛藤・対立が教育の現場を混乱させ、不信感や無気力・ことなかれ主義を惹起することが重なるからでもあるのです。後者のほうがいっそう陰湿で混乱を長期化させる厄介な問題です。
したがって、私たちは、人類の進む方向を見定め、その実現に向けて知恵を磨かなければなりません。
しかも、改正教育基本法の具体化はこれからであるので、私たちの知恵は具体的でなければなりません。子どもに接するすべての者が、今日の知恵として活用できるようにできるだけ早く示されなければなりません。
日本教育制度学会は、以上の認識のもとに、『教育改革事典』を刊行しようとしています。ご賛同いただける教育学研究者は、私たちのこの事業にぜひご参加ください。詳しくは、本学会ホームページにアクセスしてください。
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